「事務職の求人が減っていて、なかなか転職が決まらない」
「なのに、今の職場の事務仕事は増える一方で毎日忙しい……」
日本の事務職はいま、「求人は減るのに、現場の仕事量は減らない(むしろ増えている)」という奇妙なギャップに直面しています。
なぜ、AIやDX化が進んでいるのに事務職の負担は軽くならないのでしょうか?
事務職の求人は年々減少する中で、経済産業省が2026年3月に公表した『2040年の就業構造推計(改訂版)』では、事務職は約440万人余剰になるという試算がされています。
その一方で、事務職の業務そのものはより増えるという研究も出ています。
日本経済新聞の報道(2026年5月)にもある通り、大手企業を中心に事務職の「役割の再定義」や、一度はやめた採用を「再開・強化」する動きも静かに始まっています。
今、AIやロボットによる自動化、仕事の高度化、労働力不足など、複雑に絡む、
世の中の変化の中で、働き方にも大きな変化が起きつつあります。
今回は、従来型の事務職が、働き方の変化の中でギャップが出始めて、
進化していく可能性について考えていきます。
なぜ?事務職の求人が長期的に減少している3つの原因
厚生労働省が毎月発表する有効求人倍率では、人手不足が慢性化し多くの職種の有効求人倍率が高い中で、一般事務職の有効求人倍率は常に「0.2〜0.3倍台(求職者3〜4人に対して求人は1件だけ)」という状況が続いています。
なぜ、人手不足が叫ばれる中で、事務職の求人が減り続けているのか、その構造的な原因を考えてみます。
■人件費を抑えるためにバックオフィスのコスト削減
現在、あらゆる企業が物価高や原材料費の高騰の中で、いい人材確保のために、毎年のように引き上げられる最低賃金の波に直面しています。企業が生き残るためには、これまで以上にシビアな人件費コントロールが避けられません。
こうした状況では、直接利益を生み出す部門(営業職や技術職、エンジニアなど)は優先し、利益に直結しないバックオフィス(管理部門)は、コスト削減せざるを得ないため、コストセンター(利益を生まない部署)の増員は極力抑えるという判断が下され、欠員が出ても補充されない状態に陥っています。
現在の人数でなんとか回すことが求められ、例えば、一人が退職しても新人は補填されず、残されたメンバーで既存の業務を分け合い負担がジワジワと増していくことが予想されます。
■人手不足の中で採用の優先順位が変わる
少子高齢化によって労働人口が減り、人手不足が加速し、採用市場は完全に「売り手市場」へと変わりました。企業としては、若手や専門スキルを持つ人材を優先し、採用リソースを 事業の根幹を支える職種に集中せざるを得ません。
その一方で、「募集すれば応募が集まりやすい」とされる事務職は、正社員として採用する優先度が下がり、派遣社員や外部委託(BPO)へ置き換えられる流れが強まっています。
今では、事務職を正社員として雇えるだけの余裕がある企業が減り、事務の正社員枠そのものが減少しています。
■自動化による経営側の期待と現実のギャップ
ここ数年、多くの企業が大きな投資をしてクラウドツールやRPA、生成AIなどのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めています。
経営側としては、最新のITツールを導入し定型的な事務作業は半減させ、事務員を増やす必要はない(減らせるはず)という期待を持っています。
でも、ツールを導入しても、システム同士が連携していなかったり、新しいツールの操作方法や管理方法という新たな仕事が生まれ、作業は思ったように減らない現場も多いようです。
経営側は、自動化したのだから求人はしないと判断する一方で、現実的にはツールの隙間を埋めるアナログな作業が残り続けるという、期待と現実のギャップが、求人減少と現場の多忙化を同時に引き起こす原因になっています。
2040年、事務職は約440万人が余剰に
経済産業省が公表した「2040年の就業構造推計(改訂版)」では、AI・ロボットの普及や産業構造の変化により、事務職が約440万人規模で余剰になるという衝撃的な予測が示されています。
2040年の労働市場における需要と供給の大きなギャップです。
■事務職は約440万人の余剰が生じる可能性
経産省の推計によると、2040年の事務職の「需要数(必要人数)」は 約1,039万人 に対し、「供給数(働き手)」は 約1,476万人。その差が 437万人(≒440万人) の余剰として現れます。
つまり、働いているか働きたい人のほうが大幅に多いのに仕事がない、という状態が構造的に発生するということです。
■AI・ロボット等の利活用による省力化
この事務職の大きな余剰の背景には、AI・ロボット・RPA・生成AIなどの普及による 事務作業の省力化があります。経産省は、AI・ロボット等の活用によって定型的な事務作業が大幅に効率化され、
事務職の労働需要(必要人数)が減少すると分析しています。
つまり、
「事務作業はテクノロジーで置き換えられる」
という前提が、労働需要の縮小を生んでいるのです。
■東京圏では全体として余剰となり、その中心が事務職
この推計では、地域別の推計もしており、需要と供給のミスマッチが大きいのは東京圏と指摘しています。
東京圏(一都三県)では、労働供給全般が需要を上回る=余剰になり(193万人)、その中でも、余剰の圧倒的大部分を占めるのが事務職です。
東京圏は人口が多く、事務系の就業者も集中しているため、東京圏の事務職の余剰が地域全体の余剰を押し上げるという構造になっています。
求人は減るのに、事務職の労働力は最も不足するという予測
中央大学 × パーソル総合研究所の最新研究(2024年10月)では、2035年の日本は 1日あたり1,775万時間(=384万人相当)の労働力不足 に陥ると推計されています。
「労働市場の未来推計2035」を発表 2035年にかけて就業者数は増加するものの、1日あたり1,775万時間(384万人相当)の労働力が不足 2023年と比較すると労働力不足は約2倍深刻に |
https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2024/10/76949/中央大学は、グローバルな視野と実地応用の力を備え、人類の福祉に貢献する人材の育成をミッションとして「世界に存在感のある大学」であることを目指しています。ここでは大学概要やChuo Visionなど、大学としての取り組みをご紹介しています。
職業別に見ると、最も不足が深刻なのは「事務従事者」で、1日365万時間不足 という結果が示されています。求人は減っているのに、現場では事務職の時間が最も足りなくなるという、一見矛盾した現象が予測されています。
■労働力人口は増えているのに、なぜ労働力不足が深刻化するのか
研究データを見てみると、2035年に向けて労働供給人口は増えています。
就業者数は増加
2023年:6,747万人 → 2035年:7,122万人
労働参加率も上昇
特に女性60代は20pt以上上昇
外国人就業者も増加
2023年:205万人 → 2035年:377万人
それにもかかわらず、労働力不足が深刻化する理由は、
1人あたりの年間の労働時間が減少するため です。
2023年は1,850時間に対して、2035年は1,687時間に減少。
つまり、労働人数は増えても、総労働量(時間)は足りない
という構造的な問題が起きています。
■自動化で定型業務は減っても非定型業務は増えると予測される
経産省の推計では「事務職は440万人余剰」となっています。
それに対し、パーソル×中央大学の研究では、事務職業務時間は
労働力不足になると予測しています。
事務職は1日365万時間不足(全職種で最大)
→ 求人は減っているのに、現場では最も“時間”が足りない。
この違いはどうして起こるのか?
恐らく、RPA・生成AIなどによる自動化で、定型事務業務は大幅に減ると見込まれ、
会社の経営は事務作業は減ると判断し採用を絞る。
それに対し、現場では、定型業務が減っても、
情報検索、社内での質疑応答、会議の調整、資料のチェックなど、
非定型の見えない業務や自動化により新しく生まれる非定型業務が増えてる
のではないかと考えられます。
■労働力は「人数」ではなく「時間」で捉える時代へ
労働力不足への関心は高まり続けていますが、
これまでのように 「人手不足=人数が足りない」 と捉えるだけでは、
現代の労働構造を正確に理解できません。
柔軟な働き方(リモート、副業、時短)が当たり前になる未来では、
労働力は「人数 × 時間」で捉える必要がある。
・労働人口は増えている
・労働参加率も上がっている
・外国人労働者も増えている
それでも不足するのは、総労働時間が足りないから。
だから、すき間時間の最適化、非定型業務の削減、業務の再設計が必要になってきます。
業務の高度化による人手不足と、定型業務の人余り、非定型業務やすき間時間の不足が
同時に起きる事が見えています。
■事務職の労働市場では3つの現象が同時に進行する
事務職の労働市場では、これまでの常識では説明できない3つの現象が同時に進行しています。
●業務の高度化による人手不足
データ分析、業務改善、AI活用など、事務職に求められるスキルは急速に高度化しており、
高度化した業務を担える人材は明確に不足している。
●定型業務の人余り
RPA・AI・自動化の普及により、入力・集計・チェックなどの定型業務は確実に減少し、
従来型の事務スキルだけでは余剰人材になりやすい。
●非定型業務・すき間時間の深刻な不足
システムの隙間を埋める調整、例外処理、問い合わせ対応、情報検索など、
自動化により新しく生まれる非定型業務・すき間時間ワークはむしろ増え続けている。
つまり、「余っていく仕事」と「足りなくなる仕事」が同じ職種の中で同時に存在する
という、これまでにない構造が生まれています。
事務職はこれまでの枠組みでは語れない時代に入った
ここまで見てきたように、事務職を取り巻く環境は、
従来の「需要と供給」や「自動化=人が減る」という単純な枠組みでは説明できない領域
に突入しています。
・経産省は「2040年に事務職は約440万人余剰」と予測
・中央大学×パーソル研究所は「2035年に事務職が最も不足(365万時間/日)」と指摘
・現場では非定型業務が増え時間が奪われている
・企業は定型業務の自動化を前提に採用を絞る
・事務業務の高度化も同時に発生
・現場ではすき間時間の穴埋めで疲弊
etc
このように、「余剰」と「不足」が同時に起きるという前例のない現象が進行しています。
■大企業を中心に事務職の役割再定義が始まっている
伊藤忠が事務職を再定義、440万人余剰時代の人材戦略を分析する | research.nicoxz.com
https://research.nicoxz.com/articles/itochu-bx-clerical-ai-reskilling#%E4%BA%BA%E6%89%8B%E4%B8%8D%E8%B6%B3%E3%81%A8%E4%BD%99%E5%89%B0%E3%81%8C%E5%90%8C%E6%99%82%E3%81%AB%E8%B5%B7%E3%81%8D%E3%82%8B%E6%A7%8B%E9%80%A0伊藤忠商事は事務職をビジネスエキスパート職へ改称し、貿易実務や事業管理、計数管理を担う専門職として再定義しました。経産省が2040年に事務職約440万人余剰、AI・ロボット活用人材約340万人不足を見込む中、採用とリスキリング、処遇改革、文系人材の再配置をどう進めるべきか政策課題を具体的に読み解く。
伊藤忠商事が、事務職をビジネスエキスパート職と再定義しました。
https://www.itochu.co.jp/ja/about/work_style/files/bx.pdf
『DX推進や内部管理の高度化により、事務業務を取り巻く環境は大きく変化しています。
事務業務は成長を支える重要な業務であり、「組織を運営する要」としての「総合職のパートナー」との位置付けを再確認しました。「事務職」の職掌名を「ビジネスエキスパート職」に改称することを決定しました。』
・DX推進や内部管理が高度化
・事務業務を取り巻く環境は大きく変化している
・企業価値向上を支えるトレード、事業管理、計数管理等の事務業務に従事
・事務業務は専門性を発揮し成長を支える重要な業務
など・・
AIとロボットの普及で定型業務が圧縮される中で、貿易実務、事業管理、計数管理、内部統制を横断して支える専門性が重要になるという判断したもの。
■個人がとるべき戦略を考える
事務職の大きな変化が予測される中で、個人はどう対処すればいいのでしょうか?
事務職の大きな方向性として3つ予測されます。
1、AIやロボットなどで定型業務が圧縮される
2、専門性を高め高度化する
3、非定型業などすき間時間が想定される
現時点で見えている個人戦略は、この3つの方向性にどう対処するか。
1、圧縮される定型業務の狭き門を追い求める
→現状の延長ですが益々求人の需要に対し供給が厳しくなる
2、高度化の道
→ 事務+専門性(データ、業務改善、AI活用など)
3、すき間時間ワークの道
→ 非定型業務(調整・例外処理・問い合わせ対応)のプロ化
でも、これはあくまで今わかっている未来に基づく最適解にすぎません。
今後、AIの進化、組織構造の変化、コンプライアンス強化、システム統合など、
事務職の役割はこれからも変わり続ける中で、労働力不足が益々加速していく。
新しい選択肢が生まれる可能性も十分にあります。
充分な労働力が維持できる大手企業に対し、人手不足が加速する中小企業では、
例えば、
ひとり二役をするような仕事へ変化・・・
何社かで労働力をシェアする・・・
パーソル×中央大学が提案しているようにショートワーカーを活用・・・
など、
どういう変化が起きるかは予断を許しません。
■だからこそ、動向を見ながら戦略を“更新し続ける”必要がある
事務職の未来は、決して後ろ向きではなく、
「こうなる」と断言できる単純な世界ではない。
・余剰と不足が同時に起きる
・自動化と非定型業務が同時に増える
・役割が再定義され、職種そのものが変わる可能性がある
・労働力不足で新しい選択肢が生まれる
様々な要因が複雑に絡みあい、今までの固定的なキャリアではなく、
変化に合わせた動的なキャリアが必要になる。
恐らく、事務職という従来にはない、役割の再定義、
働き方の再定義など起きてくると思います。
つまり、変化を前提に、戦略をアップデートし続ける人が生き残る。
環境の変化をしっかり察知し、動向をつかみ自分にとっての最適を考え行く。
この行動は「事務職」だけでなく、あらゆる職種に言えることだと思います。

「okinawa未来カレッジ」は、誰もが自分らしい明日へ一歩を踏み出せる、 未来に向かって前進し、新しいライフサイクルを創り出すコミュニティーを目指します。