変化が激しく先が読めないVUCAの時代。
テクノロジーの進化、人口構造の変化、日本型雇用環境の変化など、
これまで「当たり前」だと思っていた生き方・働き方が静かに書き換えられています。
いま求められているのは、環境の変化を正しく察知し、その変化に適応していく力。
そのためには、私たち自身が長年信じてきた“当たり前”を一度立ち止まって見直す必要があります。
その代表例が、「とりあえず大学に行けば安泰」という価値観です。
長い間、正しいと思われているこの当たり前がいま大きく揺らぎ始めています。
今回は、なぜ大卒なら安心という神話が崩れつつあるのか、学歴インフレというキーワードからお伝えします。
学歴インフレとは何か
私たちは長い間、「大学に行けば安定した人生が手に入る」
という価値観を当たり前に疑うことなく信じてきました。
しかし、いまアメリカや中国、そして日本でも、
その当たり前が静かに、しかし確実に崩れ始めています。
その背景にあるのが、学歴インフレという現象です。
■学歴インフレとは
学歴インフレとは、大学に進学する人が増えすぎた結果、学歴そのものの価値が相対的に下がってしまう現象を指します。
物価が上昇して通貨の価値が下がるインフレーションのように、学位を持つ人が増え過ぎて学歴の価値が下がるということである。
通貨が大量に発行されれば価値が下がるように価値が下がります。
かつては、「大卒」という肩書きは、限られた人だけが持つ特別な資格でした。
でも、大学進学率が上昇し、大卒が“特別”ではなく“普通”になった今、
その希少性は失われ、学歴が持つ力は以前ほど強くありません。
通貨が大量に発行されれば価値が下がるように、学歴もまた、数が増えることで価値が薄まっている状態を指しています。
■世界で広がる学歴インフレ
学歴インフレは日本だけの問題ではなく、世界中で進行しています。
アメリカでは、2008年の金融危機以降、求職者が求人数を大きく上回る状況が続きました。
企業は大量の応募者を効率的にふるい落とすために、本来は学位が不要な職種にまで「大卒以上」を条件として課すようになりました。
例えば、秘書や事務、さらには現場系の監督職でさえ学士号が求められるケースが増え、学歴の過剰要求が常態化しています。労働市場の需要と供給のバランスの悪化が、学歴インフレを押し上げた典型例です。
中国では、都市部を中心に極端な高学歴化が進んでいます。
大学卒業生の数は年々増え続け、北京市ではついに大学院卒の人数が学部卒を上回るという現象まで起きました。学部卒では競争に勝てないという感覚が社会全体に広がり、若者がこぞって大学院へ進むことで、学歴の価値がさらに押し下げられるというスパイラルが生まれています。
韓国では、学歴インフレの背景に「受験熱(입시열)」と呼ばれる独特の文化があります。子どもの教育に対する期待が非常に高く、学歴が人生の成功を左右するという価値観が社会全体に強く根づいています。学歴を求める理由が収入よりも名誉や自尊心に結びついている点が特徴で、より高い学歴を得るために大学院へ進む若者も多く、博士号取得者が需要を大きく上回るなど、過剰な高学歴化が問題視されています。学歴が“身分”のように扱われる文化が、学歴インフレをさらに加速させているのです。
このように、国ごとに背景は異なるものの、共通しているのは「学歴が増えすぎて価値が下がる」という状況です。
■日本は世界でも突出した「過剰学歴」社会
OECDの Education at a Glance(国際教育指標)では、各国の「学歴過剰(Overqualification)」の比較が行われています。
その中で、日本は OECD加盟国の中で最も学歴過剰レベルが高い国と位置づけられています。
これは、
大学・大学院など高等教育を修了したにもかかわらず、その教育レベルに見合わない仕事に就いている労働者の割合が日本は最も高いという意味です。
日本の大学進学率はすでに 60%を超え、OECDの平均を上回っています。
同じOECDデータでは、日本は 修士号・博士号の取得者数が主要国より少ないとも指摘されています。
つまり日本は、学部卒は多い(進学率が高い)けれど高度学位(修士・博士)は少なく、その一方で大卒が活かせる職務が少ないという、とてもアンバランスな状態だと考えられます。
日本で学歴インフレが起きた背景・原因
学歴インフレは偶然に起きた現象ではありません。日本社会の中で、長く積み重なってきた制度、価値観、産業構造の変化が複雑に絡み合い、その結果として生まれたものです。
だからこそ、当たり前になっていったとも言えます。日本の学歴インフラが起きた主要な背景・原因について考えていきます。
■大学進学率の上昇(高等教育の大衆化)
日本の学歴インフレを理解するうえで、最初に押さえるべき構造が「大学進学率の上昇」です。
かつて日本では、大学進学は一部の限られた層の選択肢だったけれど、1990年代以降、大学進学率は右肩上がりに上昇し、2000年代には50%を突破、現在では60%を超える水準に達しています。
日本では、大卒は特別な資格ではなく社会の多数派になっています。
この背景には、大学の増加が大きく関連しています。1990年代後半の大学設置基準の緩和により、新設大学が急増し、入学定員も拡大しました。
大学の数が増え、入試の難易度が下がり、誰でも大学に進学できる環境が整ったことで、高等教育は完全に大衆化しました。
その結果、「大学に行くこと」自体が目的化し、進学する理由として「なんとなく」「周りが行くから」が上位に並ぶようになり、社会全体が「とりあえず大学へ」という価値観が当たり前になったと言えます。
しかし、大学が増え、学生が増え、学位が増えれば、学歴の希少性は当然失われる。学歴は“数が増えれば価値が下がる”という経済の基本原理から逃れられない。大学の乱立は学位の質のばらつきを生み、「大卒」という肩書きが示す意味はかつてほど明確ではなくなった。
こうして日本は、
「誰もが大卒の時代」=「大卒の価値が相対的に下がる時代」
へと静かに移行していった。
この“量の膨張”こそが、学歴インフレの最初の土台であり、後に続くホワイトカラー需要の停滞や雇用構造の変化と結びつくことで、日本特有の過剰学歴社会を形づくることになる。
■現場職からホワイトカラー化への産業構造の変化
日本の産業構造は、戦後の高度経済成長期から大きく姿を変えてきました。
かつては、製造業が経済の中心で、現場で働くブルーカラーが多数を占めていました。徐々にサービス産業が急速に拡大すると同時に、製造業でもオフィスワークを担うホワイトカラー職が増えていきました。
このホワイトカラー化の変化は、「大卒向けのデスクワーク」が主流という印象を社会に与え、大学進学を後押しする要因にもなったと言えます。
ホワイトカラー職種の方が、現場職のブルーカラー職種より上という感覚も後押ししたと考えられます。
でも、このホワイトカラー化は現在、別の局面に入り、ホワイトカラーのその中身は大きく変化しています。
増えているのは、専門性の高い職種や高度なスキルを必要とする領域であり、一般的な事務職や総務・庶務といった従来型ホワイトカラーはむしろ縮小しています。
AI・自動化・アウトソーシングの進展により、「誰でもできるホワイトカラー仕事」から「高度スキルを持つ専門職」へと需要がシフトしている。
求められるホワイトカラーの質が大きく変わっているということ。
その結果、大学進学率が上昇し大卒が増え続ける一方で、大卒が就きたい一般ホワイトカラー職は減り、大卒が求められる専門職は高度にスキルが必要で競争が激しいという、学歴インフラの二重のミスマッチが生まれています。
「ホワイトカラー化=大卒需要の増加」という当たり前は現実と乖離してきています。
この変化に気づかないまま「とりあえず大学へ」という価値観だけが残り続けたことが、学歴インフレをさらに深刻化させていると考えられます。
■雇用環境の変化
日本の学歴インフレを決定的に深刻化させていると考えられるのが雇用環境の変化です。大学進学率が上昇し大卒が増え続ける一方で、企業側の採用や昇進の仕組みなど、学歴の価値を十分に活かせる状況ではありません。ここでは、その中核となる主要な3つの要素を見ていきます。
●学歴フィルター
学歴フィルターとは、企業が採用の初期段階で大学名によって応募者をふるいにかける仕組みのこと。増え続ける大卒学位の応募の中で、企業はより強く学歴フィルターをかけるようになり、日本企業では多数確認されており特に人気企業ほど強く働いていると考えられます。
人気企業に就職したい人達が増え学歴インフレに拍車をかけていると思われます。
●ホワイトカラーの2極化
学生に人気のホワイトカラー職種。現在はその傾向が大きく変わってきています。
・専門職はテクノロジーの進化により高度化し、企業は即戦力を求め始めている中で、大学で一般教養を学んだだけでは採用が難しくなってきている
・一方で、事務職・総務・庶務などのホワイトカラー職は、AI・自動化・アウトソーシングによって急速に縮小している
このホワイトカラーの2極化に気づかないまま「とりあえず大学へ」という価値観だけが残っていることが、学歴インフレを加速させていると考えられます。
●管理職ポストの変化
経済成長時代の当たり前では、大学を出ていれば、管理職になり、給料も上がるということが想定されました。
親の世代の価値観がそのまま、子どもにも引き継がれ、とりあえず大学は出るという感覚を生んでいるとも考えられます。
でも、1990年代以降、日本企業では管理職ポストは、組織のフラット化や中間管理職の削減により、昇進の椅子は縮小しています。
学歴インフレによる影響
学歴インフレは、単に「大卒が増えた」という現象ではありません。個人の生き方働き方にに深刻な影響が生まれています。ここでは、学歴インフレが個人の人生にどのような形で跳ね返ってくるのかを見ていきます。
■大卒が増えすぎてホワイトカラー事務職の椅子が足りない
学歴インフレで、大学進学率が上昇し、大卒が多数派になったことで、企業側の需要と就職側の供給バランスが崩れています。特に顕著なのが、ホワイトカラー事務職の「椅子不足」。
特に大卒が希望するホワイトカラー事務職は、供給に対して需要が圧倒的に足りていません。
人気が高い一方で、AI・自動化・アウトソーシングの影響で求人数は減少し続けています。
その結果、事務職の有効求人倍率は 0.34倍という狭き門です。
つまり、3人に1人しか椅子がないという極端な供給過多の状態です。
■専門・技術職の高度化でとりあえず大卒では即戦力にならない
ホワイトカラー事務職の椅子が減る一方で、専門・技術職のニーズは高くなっています。
でも、企業が求める専門・技術職の能力スキルは高度化しています。
データ分析、AI、プログラミング、デジタルマーケティング、専門的な技術職など、
企業が求めるスキルは年々レベルアップし、しかも企業は即戦力を求めています。
でも、日本の大学教育は一般教養中心で、実務スキルを体系的に身につける場にはなっていないのが現状。
そのため、「大卒は増えたが、企業が求める即戦力になるスキルを持つ大卒は増えていない」
というギャップが生まれています。
■ミスマッチの増加(不本意就業)
ホワイトカラー事務職の椅子不足と専門技術職のスキル不足が重なることで、大卒の不本意就業(ミスマッチ)が急増していると考えられます。
本来は大卒レベルの仕事を希望しているにもかかわらず、
・非正規雇用
・大卒不要の職種
・キャリアにつながらない仕事
などに流されてしまう若者もが増えているのではないかと思われます。
大卒なのに大卒レベルの仕事に就けない現実。
OECDも、日本は「学歴過剰が最も深刻な国」と指摘しており、
これは個人の努力不足ではなく、需要と供給のミスマッチが構造的に起きていると考えられます。
■大学進学の投資の回収が年々長期化している
大学に進学すると、4年間で数百万円の費用と時間がかかります。学費以外にも生活費も考えると相当な費用が発生します。
リクルートが、「大学進学の機会損失」を、指数的に「何年働くと大学進学によるコストを回収できるか」を推計することができるかを試算しています。
生産工程従事者で4年就業した際の推計収入が「大学進学の(狭義の)機会損失」であると想定したもので、学費や生活費などは含めていません。
専門的・技術的職業従事者の大学卒においては2020年には7.9年で回収できていたものが、2025年には15.0年となっている。事務従事者の大学卒においては2020年に9.8年で回収できていたものが、2025年には16.8年となった。専門的・技術的職業従事者のほうが所得水準が高い分、回収までにかかる期間が短くなるが、両職種ともにその期間が2020年から2025年にかけて長期化している明確な傾向があることに違いはない。
この資産から明らかなように、2020年と2025年を比較すると機会損失の回収期間が長くなっています。
高卒で需要の高い生産工程従事者として就職する場合との比較になりますが、大学進学による投資コストを考えていく上ではとても参考になるのではないでしょうか?
学歴インフレのその先の変化を見据える
学歴インフレは、構造的に変化は加速することが予測されます。
「とりあえず大学へ」という選択が生み出すミスマッチは、これからさらに大きくなることが確実です。とりあえず大学に行けば何とかなるという感覚では、チャンスを逃すことになりかねません。
自分を取り巻く環境の変化をしっかりと見据えて、打ち手を考えていくことが大切だと思います。
■日本型の雇用慣行が益々変化する
企業が求める人材像は、ここ数年で劇的に変わってきています。それに伴って、昭和の経済成長時代からの日本型雇用慣行も変わりつつあります。
グローバル化、テクノロジーの進化、構造的な人手不足など、激しい競争環境にある企業がどんどん変化しています。
・仕事の専門性は年々高度化し
・新卒でも即戦力が求められ
・「学歴より経験」が重視されるようになっている
など、かつては「大学で学んだことは関係ない、入社後に育てる」というモデルが主流でしたが、
今はその前提が完全に崩れつつあります。
大学で一般教養を学んだだけでは、高度化した専門職にも、縮小するホワイトカラー職にもなれない・・・
この構図が、学歴インフレをますます深刻化させることが予想できます。
■AIの影響でホワイトカラーからブルーカラーへのシフト
ホワイトカラー消滅という本が話題になったように、AIの進化は、ホワイトカラーの仕事が確実に変化していくことが予想されます。
事務職、総務・庶務、定型業務、書類処理、データ入力、コールセンターなど
のタスクはAIや自動化やRPAなどに代替され、誰でもできるホワイトカラー仕事は消えていく。
その一方で、
生産工程、物流、建設、介護、営業・サービス現場、など、AIで代替しにくい現場現業の仕事は、
人手不足によって価値が上昇することが予想されます。
つまり、ホワイトカラーは減り、ブルーカラーは価値が上がるという逆転現象が進んでいます。
アメリカでは、ブルーカラービリオネアが話題になり、日本でも少しづつその兆しが見えてきています。
■働き方がマルチステージ化に変化
AIが知識を補完する時代では、「知識を持っていること」より「経験していること」 が価値を持つ可能性が高くなります。
特に、10代・20代の一次経験は、現場での判断力、人との関わり、仕事の基礎体力
問題解決力、実務の肌感覚などAIでは代替できない能力が育まれると言われています
しかも、雇用はより流動化されることも予測され、一つの会社・一つの職種でキャリアを終える時代ではなくなり、学び直しや転職を繰り返すマルチステージ型のキャリアが一般化する可能性が高くなる。
大学で4年間座学を続けるより、若いうちに現場で経験を積むという選択肢ももっと現実的なものになる可能性があります。
AIが知識を補完する時代では、「知識を持っていること」より「経験していること」 が価値を持つ可能性が高くなります。
特に、10代・20代の一次経験は、現場での判断力、人との関わり、仕事の基礎体力
問題解決力、実務の肌感覚などAIでは代替できない能力が育まれると言われています
しかも、雇用はより流動化されることも予測され、一つの会社・一つの職種でキャリアを終える時代ではなくなり、学び直しや転職を繰り返すマルチステージ型のキャリアが一般化する可能性が高くなる。
大学で4年間座学を続けるより、若いうちに現場で経験を積むという選択肢ももっと現実的なものになる可能性があります。
まとめ─今までの当たり前を見直し、自分を取り巻く環境の変化を察知する
ここまで見てきたように、日本の学歴インフレは単なる教育問題ではなく、社会構造そのものの変化が生み出した必然的な現象です。大学進学率の上昇、ホワイトカラー需要の停滞、雇用環境の高度化、AIの進化などが複雑に絡み合い、「とりあえず大学へ」という価値観がもはや現実と噛み合わなくなってきています。
かつて経済成長時代には、いい大学に進学し、大企業に入り、年功序列で昇進して、その会社で勤め上げ退職金をもらって悠々自適な老後を過ごすという、みんな一緒の一本道の生き方働き方が存在しました。でも、今は、その前提が静かに、しかし確実に崩れつつあります。
日本型雇用は変化し、ホワイトカラーの仕事は減り、専門技術職は高度化し、現場の価値は上がり、AIが知識を補完し、働き方は流動化し、若い時期の一次経験が資産になる・・・
こうした変化は、誰かが教えてくれるものではありません。
自分で気づき、自分で読み解き、自分で選び取っていく必要があります。
もちろん、昭和の経済成長時代から続いた制度や風土は中々変わらず、現実の変化とのギャップも大きい状態も続くと予想されます。
だからこそ、今求められているのは、
「今までの当たり前を一度立ち止まって見直す力」
そして、
「自分を取り巻く環境の変化を敏感に察知する力」
です。
学歴インフレが進む時代において、人生を決めるのは学歴ではなくなりつつある。
自分がどんな経験を積み、どんなスキルを磨き、どんな選択をしていくか――
その積み重ねが、これからの生き方働き方を形づくる。
その変化は脅威(ピンチ)ではなく、気づけば武器になる。
環境の変化を正しく読み取り、自分の軸で選択していくことができれば、
これまで以上に自由で、自分らしい人生を築くことができる可能性が広がります。
時代が変わるなら、自分の前提もアップデートすればいい。
その第一歩は、
「当たり前を疑い、変化に気づくこと」
から始まります。

「okinawa未来カレッジ」は、誰もが自分らしい明日へ一歩を踏み出せる、 未来に向かって前進し、新しいライフサイクルを創り出すコミュニティーを目指します。