はじめに――「やりたいことを見つけよう」が苦しい人へ
「本当にやりたいことは何ですか」
そう聞かれて、すぐに答えられる人ばかりではありません。
仕事、家事、育児、介護など、毎日の「やるべきこと」に追われてきた。
家族や職場の期待に応え、自分のことは後回しにしてきた。
間違えないように、周囲が示す正解を選んできた。
そんな人が、いきなり「夢を持とう」「好きなことを仕事にしよう」と言われても、
答えられないのは当然です。
やりたいことがないのではなく、自分が何を感じ、何を望んでいるのかを
確かめる時間と機会がなかったのかもしれません。
この記事では、完成された答えを探すのではなく、自分の中にある小さな
やりたいことの「火種」を見つけ、育てていく方法を考えます。
なぜ「やりたいこと」が分からなくなるのか
■「やるべきこと」で一日が埋まっていないか
仕事、通勤、家事、育児、介護。そして、無意識にみてしまうスマホ・・・
毎日を「やるべきこと」に追われていると、自分が何をしたいのかを感じる余白は
少なくなっていきます。
リクルートワークス研究所では、睡眠や仕事、通勤、家事、育児、介護などを除いた、
自分で使い方を決められる時間を「可処分時間」として調査しています。
その結果、働く日の可処分時間が4時間未満の就業者は約2割。
15歳以下の子どもと同居する就業者では45.5%にのぼりました。
「今日は何をしようか」と自由に考える時間そのものが、十分にない人も少なくないのです。
そんな生活の中で突然、
「あなたは本当は何がしたいですか?」
と聞かれても、答えが出てこないのは不思議ではありません。
「やりたいことがない」のではなく、自分の「やってみたい」に気づくための時間が
足りていない可能性があります。
■いつの間にか「自分はどうしたい?」を考えなくなる
時間だけではありません。
私たちは、家庭、学校、職場、地域など、さまざまな環境の中で生きています。
「失敗しないように」
「周りに迷惑をかけないように」
「言われたことをきちんとやる」
「普通はこうするものだ」
そうした環境に長く適応していると、
「自分はどうしたいか」より、「自分は何をすべきか」
ばかりを優先することが習慣になることがあります。
仕事でも家庭でも、周囲から期待される役割をきちんと果たすことが優先され、
やらなければいけないことばかりの思考回路になってしまう。
周囲のことにとても気を遣う人はなおさらです。
求められている役割の中で、毎日が過ぎてしまう。
だからこそ、自分自身に、
「何が好き?」
「何をやってみたい?」
と問いかける機会が少なくなっているのかもしれません。
■「やりたいことがない」と決めつけなくていい
だから、
「自分には夢がない」
「やりたいことがない」
「好奇心がなくなった」
と、すぐに自分自身の問題にしなくてもいいのです。
まず考えてみたいのは、
「やりたい」が生まれるような時間や環境を、自分は持っているだろうか?
ということです。
少し自由に使える時間がある。
知らないものに触れられる。
失敗しても大丈夫だと思える。
「面白そう」と思ったことを試せる。
そんな余白や環境があって初めて、自分でも忘れていた興味や好奇心が顔を出すことがあります。
もしかすると、なくなったのではありません。
長い間、使っていなかっただけなのかもしれません。
では、その感覚をどう取り戻せばいいのでしょうか。
次章では、「やりたいこと」を頭の中だけで探すのではなく、
実際にやってみることから見つけるという方法を考えてみます。
「やりたいこと」は、頭の中だけでは見つからない
■考えてから動く、だけでなくてもいい
「やりたいことを見つけよう」とすると、まず自分について考えようとします。
何が好きなのか。
何が得意なのか。
どんな仕事が向いているのか。
将来どうなりたいのか。
自己分析はもちろん大切です。
でも、いくら考えても答えが出てこないこともあります。
なぜなら、まだ経験したことのないものを、頭の中だけで
「好きか嫌いか」「向いているか」を判断することは難しいからです。
旅行へ行って初めて好きになった土地。
誘われて参加してみたら意外と楽しかったイベント。
手伝ってみたら、人から喜ばれることが嬉しかった仕事。
人生には、やってみて初めて分かることがあります。
だから、
考える → 答えを出す → 行動する
だけでなく、
興味を持つ → やってみる → 感じる → 考える
という順番があってもいいのです。
■「ちょっと気になる」を大切にする
最初から「これが私のやりたいことだ」と確信する必要はありません。
もっと小さな感覚から始めていいのです。
「なんとなく面白そう」
「一度行ってみたい」
「昔ちょっと好きだった」
「あの人のやっていることが気になる」
「理由は分からないけれど、なぜか惹かれる」
こうした小さな興味や関心は、まだ「やりたいこと」と呼べるほど大きくないかもしれません。
でも、それを実際に試してみることで、
「もっとやりたい」
「思っていたのとは違った」
「意外と自分に向いているかも」
「こんな世界があったんだ」
と、新しいことが見えてきます。
ちょっと、「違った」と分かることも大切な発見です。
経験することで、少しずつ自分についての情報が増えていくからです。
■やってみて、初めて見える景色がある
山を登るとき、麓から頂上までの景色をすべて見ることはできません。
少し登ると、今まで見えなかった景色が見える。
さらに進むと、新しい道が見えてくる。
人生も、それに似ています。
最初から目的地を完璧に決めなくてもいい。
まず少し動いてみる。
すると、新しい人、新しい場所、新しい経験に出会います。
そして、「自分はこんなことが好きだったんだ」
と、動く前には分からなかった自分に出会うこともあります。
やりたいことが見つかってから、始めるのではない。
始めてみることで、やりたいことが見えてくることもある。
やってみて、初めて見える景色があります。
まずは「ちょっと気になる」という小さな感覚を、見逃さないところから始めてみましょう。
心の中の「小さな芽」に気づく
■昔、何に夢中になっていただろう
「やりたいこと」を探すとき、未来ばかりを見る必要はありません。
少しだけ、過去の自分を振り返ってみましょう。
子どもの頃、何をしていると時間を忘れましたか。
どんな遊びが好きでしたか。
どんな漫画や本、テレビ番組に夢中になりましたか。
誰に憧れていましたか。
子どもの頃は、「これは将来役に立つだろうか」「仕事になるだろうか」などと考えず、
ただ面白いから夢中になっていたことも多かったはずです。
そこには、今では忘れてしまった自分らしさのヒントが隠れているかもしれません。
■「なぜ好きだったのか」を考えてみる
昔好きだったことを、そのまま仕事にする必要はありません。
大切なのは、
「なぜ、自分はそれが好きだったのだろう?」
と振り返ってみることです。
たとえば、漫画が好きだった。
絵を描くことが好きだったのかもしれない。
物語を想像することが好きだったのかもしれない。
登場人物の生き方に憧れていたのかもしれません。
「何が好きだったか」だけでなく、その奥にある自分の心が動いた理由を探してみる。
そこに、これからの自分につながるヒントがあります。
■言葉になる前の「ワクワク、ドキドキ」を大切にする
「やりたいこと」は、最初から言葉になっているとは限りません。
なぜか気になる。
見ているとワクワクする。
初めてなのに妙に惹かれる。
考えるだけで少しドキドキする。
「なんだか面白そう」「ちょっとやってみたい」。
・・・・
そんな言葉になる前の小さな感覚から始まることがあります。
それは、まだ「夢」でも「目標」でもありません。
心の中に顔を出した小さな芽のようなものです。
ところが大人になると、
「仕事になるの?」
「役に立つの?」
「お金になるの?」
「今さらやってどうするの?」
と、頭で判断し、芽が育つ前に摘んでしまいがちです。
すぐに意味をつけなくてもいい。
理由を説明できなくてもいい。
まずは、
「あ、自分はいま少し心が動いた」
という感覚に気づいてみる。
そして、その小さな芽に少しだけ時間を使ってみる。
実際にやってみれば、「もっとやりたい」のか、「思っていたのとは違った」
のかも分かってきます。
やりたいことは、頭だけで探すものではなく、
ワクワク、ドキドキという小さな感覚を、経験しながら育てていくものなのかもしれません。
環境を変えると、違う自分が見えてくる
■「やりたい」が育ちにくい環境もある
心の中に小さな芽があっても、それが育ちにくい環境があります。
「失敗してはいけない」
「余計なことをするな」
「普通はこうするものだ」
「そんなことをして何になるの?」
そんな言葉を繰り返し聞いていると、せっかく「やってみたい」と思っても、
自分でその気持ちを抑えるようになることがあります。
また、仕事や家事などに追われ、自分で自由に使える時間がほとんどなければ、
新しいことを試すこと自体が難しくなります。
だから、「やりたいことがない」と感じたとき、自分の内面だけに原因を探す必要はありません。
「自分の『やってみたい』という心の芽が育つ環境にいるだろうか?」
という視点も大切です。
■安心して「やってみたい」と言える場所を持つ
いきなり今の環境を大きく変える必要はありません。
まずは、
普段とは少し違う場所へ行ってみる。
興味のあるイベントに参加する。
習い事を始める。
地域活動に参加する。
自然の中で過ごす。
違う世代や仕事の人と話してみる。
など・・・・
小さなことから始めましょう。
そこで大切なのが、安心して自分を出せる仲間や居場所です。
「それ面白そうだね」
「やってみたら?」
「失敗しても大丈夫」
と言ってくれる人がいるだけで、小さな芽は育ちやすくなります。
自分と似た境遇だった人が新しいことを始めている姿を見て、
「自分にもできるかもしれない」
「自分もやってみたい」
と思うこともあります。
■自分を変える前に、環境を少し変えてみる
私たちは、「自分を変えなければ」と考えがちです。
もっと積極的になろう。
もっと自信を持とう。
もっと主体的になろう。
でも、人は置かれた環境によって、見せる姿が変わることがあります。
職場ではほとんど発言しない人が、趣味の集まりでは生き生きと話している。
仕事では指示を待っている人が、地域活動では自分からどんどん動いている。
そんなことは珍しくありません。
だから、
自分を無理に変えようとする前に、自分が少し動きたくなる環境へ行ってみる。
それも一つの方法です。
新しい人、新しい場所、新しい経験に触れると、それまで眠っていた好奇心や
「やってみたい」が顔を出すことがあります。
環境を少し変えるだけで、今まで知らなかった自分に出会えることもあるのです。
「やりたいこと」を決める前に、まずやってみる
■人生は、目標から逆算しなくてもいい
「将来こうなりたい」という目標を決め、そこから逆算して行動する。
これは一つの有効な方法です。
でも、誰もが最初から明確な目標を持っているわけではありません。
夢や目標がはっきりしている、起業家やアスリートなら有効なプロセスです。
でも、
やりたいという心の芽が芽吹いていない人にとって、
具体的な目標を立てることは非現実的です。
だから、目標が見つからないなら、無理につくる必要はありません。
もう一つ、「積み上げ型」の進み方があります。
「ちょっと気になる」
「面白そう」
「一度やってみたい」
そんな小さな興味から始めてみる。
やってみて、面白ければもう少し続ける。
違うと思ったら、別のことを試す。
そうやって経験を積み重ねながら、自分の進みたい方向を見つけていく方法です。
■まずはやってみて、新しい景色を見てみよう
興味があることを見つけたら、次は実際にやってみましょう。
ただし、大きな挑戦をする必要はありません。
気になっていた場所へ行ってみる。
興味のあるイベントに参加してみる。
昔好きだったことを、もう一度やってみる。
会ってみたかった人に会いに行く。
やったことのないことを体験してみる。
大切なのは、考えているだけの状態から、一度外へ出てみることです。
実際に動くと、新しい人に出会ったり、知らなかった世界を知ったり、
思いがけない興味が生まれたりします。
もちろん、
「思っていたほど面白くなかった」
ということもあるでしょう。
それでも構いません。
「これは違う」と分かることも、自分を知るための大切な経験です。
最初から正解を選ぼうとしなくていい。
興味を持つ → やってみる → 感じてみる → 次を選ぶ。
この繰り返しで、自分の世界は少しずつ広がっていきます。
まずはやってみる。
そして、今まで知らなかった景色を見に行く。
そのくらいの気持ちで、最初の一歩を踏み出してみましょう。
■まず30分、面白かったらもう少し
だから、最初から大きな決断をする必要はありません。
まず30分だけ、気になることに時間を使ってみる。
本を読む。
体験教室へ行く。
昔好きだったことをもう一度やってみる。
興味のある人に会ってみる。
知らない場所を歩いてみる。
そして、「もう少しやってみたい」と思ったら、少しずつ時間を増やしてみる。
新しいスキルを身につける方法としては、
「まず20時間程度、集中的に取り組んでみる」という考え方もあります。
大切なのは、最初から上手になることではありません。
自分の心がどう動くのかを確かめることです。
30分やってみる。
面白ければ、もう少しやってみる。
違ったら、次の小さな芽を試してみる。
その繰り返しでいいのです。
やりたいことがあるから動くのではなく、動くから「やりたい」が育っていくこともある。
大きな夢がなくても構いません。
心の中に生まれた小さな芽を一つ選んで、まずやってみる。
そこから、今まで見えなかった次の景色が見えてくるかもしれません。
まとめ 「やりたいこと」は、少しずつ育てていけばいい
「やりたいことがない」と感じても、焦る必要はありません。
本当に何もないのではなく、毎日の「やるべきこと」に追われ、
自分の気持ちに気づく時間や余白が少なくなっているのかもしれません。
まずは、
「ちょっと気になる」
「なんだか面白そう」
「少しワクワクする」
という、言葉になる前の小さな感覚を大切にしてみる。
そして、興味を持ったら小さくやってみる。
違ったら、また別のことを試してみる。
最初から人生の目標や正解を決める必要はありません。
やりたいことがあるから動くのではなく、動くから「やりたい」が育っていくこともある。
自分で選び、自分で経験し、自分の心がどう動くのかを確かめていく。
その積み重ねの中から、自分らしい方向が少しずつ見えてくるのではないでしょうか。

「okinawa未来カレッジ」は、誰もが自分らしい明日へ一歩を踏み出せる、 未来に向かって前進し、新しいライフサイクルを創り出すコミュニティーを目指します。