時間をうまく使っているのに、なぜ満たされない?―「時間の質」QOTを考える

時間をうまく使っているのに、なぜ満たされない?―「時間の質」QOTを考える

時間を効率よく使っているのに、なぜか満たされない。「その時間は、自分にとってどうだったか」というQOT(時間の質)の視点から、日々の過ごし方を見直します。休息や楽しみ、人との関わりを通じて、暮らしや人生の質を育てるヒントを紹介します。

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QOT

この記事で伝えたいこと
- 時間は、量や効率だけでなく「自分にとってどんな時間だったか」からも考えられます。
- 世間で有意義とされる過ごし方が、今の自分に合っているとは限りません。
- 集中して取り組む時間も、何もせず休む時間も、自分にとっての意味があります。
- 日々の時間の積み重ねも、暮らしや人生の質につながります。「過ごしてよかった時間」から、自分に合う条件を探します。

前回の「加速する社会・心の余白」の記事では、目まぐるしく変化する社会の中で、心がいつも「待機中」になっていないかを確かめ、自分の感覚に触れる余白を持つ大切さをご紹介しました。

50代、自分の時間がない―「加速する社会」で、心の余白を取り戻す | 新しい生き方働き方暮し方ブログ

https://atarashiihatarakikata.com/articles/76

50代で自分の時間がない。便利になっても忙しい背景を「加速する社会」と時間貧困から解説。仕事や家庭の役割を見直し、人を大切にしながら自分の感覚と意思に触れる、心の余白の持ち方を紹介します。

では、その余白を、どのように過ごしたいでしょうか。

予定はこなした。時間も無駄にしなかった。
それなのに、一日の終わりに「何かが足りない」と感じることはありませんか。

そんなときは、時間を「量」だけでなく「質」から見つめてみます。

リンダ・グラットンさんと糸井重里さんの対談にも、
「時間の質(quality of time)」という視点が登場します。[1]

この記事では、その議論を手がかりに、時間の質を「QOT」と略して考えます。

休息、楽しみ、仕事、人との関わり。自分が過ごす時間と、誰かとともにつくる時間の
両方を見つめ、暮らしや人生の質「QOL」につながる過ごし方を探していきます。

時間をうまく使っているのに、満たされない

■予定は全部こなした。それでも、何かが足りない

例えば、こんな休日を想像してみてください。

朝から洗濯を回し、買い物を済ませる。
移動中には学習動画を見て、午後には運動もする。
家族に頼まれた用事にも対応し、夕食の準備まで終えた。

予定は順調に進みました。
それでも、夜に一息つくと、「今日は自分のために何をしたのだろう」と思う。

何もしていなかったわけではありません。暮らしを支える大切なことを、いくつもしています。
ただ、その一日の中に、自分がどう過ごしたいかを確かめる場面はあったでしょうか。

「できたこと」の多さと、自分が満たされた実感は、いつも一致するとは限りません。

■自由な時間まで、役に立つことで埋まっていないか?

「せっかくの休日だから、有意義に使わなければ」
「何も身につかなかったら、時間がもったいない」
そう考えると、休みの日にも、学びや運動、交流の予定を詰めたくなるかもしれません。

学ぶことも、体を動かすことも大切です。
一方で、予定を選ぶ基準が「役に立つか」「成果が残るか」だけになると、
自由時間にも課題をこなし続けることになります。

仕事や家庭で、限られた時間の中で役割を果たしてきた。
その段取り力は、自分を助けてきた力です。
これからは、そこに「今の自分に合っているか」という基準も加えられます。

■「できたこと」と「求めていたこと」は違う

AIと対話して知識を増やしたけれど、本当は画面から離れたかった。
人に会ったけれど、その日は静かに休みたかった。
反対に、一人で過ごしたものの、誰かと何でもない話をしたかった。
など・・・

予定をこなせても、自分が求めていた過ごし方とは、少しずれていることがあります。

そんなときは、「何ができたか」に加えて、「自分の心は喜んでいたか」「少しほっとできたか」と問いかけてみます。

時には、何もしない時間を選んでもよいでしょう。窓の外を眺める。お茶をゆっくり飲む。
眠ければ横になる。何かを学んだり、成果を残したりしなくても、張りつめていた気持ちが緩み、「少し休めた」と感じられるなら、その時間には意味があります。

いつもと違う道を歩いたり、好きな音楽を聴いたりすることが、気分を切り替えるきっかけ
になる場合もあります。自分が求めていたのは、新しい知識より、リフレッシュする時間だった
と気づくかもしれません。

もちろん、心が喜ぶ時間は、楽で穏やかな時間だけではありません。
少し難しいことに取り組み、疲れながらも「やってよかった」と感じることもあります。

何に惹かれ、何が負担で、どんなときに気持ちがほぐれたか。
自分の望みが最初からはっきりしていなくても、過ごした後の小さな反応が、
次の選び方を教えてくれます。

時間を量だけでなく、質で考える――QOTとは

■「どれだけ使ったか」から「どう過ごせたか」へ

タイパは、かけた時間に対して何が得られたかを考える視点です。
家事の手間を減らしたり、仕事を進めやすくしたりする工夫は、生活の負担を軽くしてくれます。

そこに加えたいのが、「その時間は、自分にとってどんな時間だったか」という問いです。

2016年12月20日公開の、ほぼ日刊イトイ新聞の対談「寿命100年時代をどう生きる?」第3回で、グラットンさんは次のように語っています。

「大切なのは『時間の質(quality of time)』なんですよ。」[1]

この対談では、小商いを話題に、自分の一日への手応えや、相手が過ごす時間の価値が
話し合われています。

この記事では、この視点を日常の過ごし方へ広げ、休めた、面白かった、つながれた、
納得できた、少し無理をした、といった経験を確かめます。原文に「QOT」という略称はなく、
ここでは読みやすさのために用いています。診断尺度として紹介するものではありません。

効率化で20分空いたなら、その20分をさらに用事で埋める前に、「自分はどう過ごしたいだろう」と考えてみる。そうした選び方にも、時間の質への目配りがあります。

■同じ30分でも、自分にとっての意味は変わる

集中して文章を書き、「ここまでできた」と手応えを得る30分。
温かいお茶を飲みながら、何も決めずに過ごす30分。
どちらも、自分に合う時間になり得ます。

同じ散歩でも、一人で考えを整理したい日と、誰かと話しながら歩きたい日があります。
疲れている日には、遠出より近所を少し歩く方が心地よいこともあるでしょう。

行動の名前だけでは、その時間の質は分かりません。
その時々の状況、体調、場所、相手、時間の余裕、途中でやめられるかなども関わります。

でも、時間に追われて精神的にいっぱいいっぱいだと、その判断力が落ちていることもあります。
疲れやストレスを感じている時は、ゆっくりした方がいいと体や心がサインを送っていることも。

ふと立ち止まって、この30分どう使おうと考えるだけで、意味が深まります。

■「その時間は、自分にとって質が高いか?」を確かめる

手がかりになるのは、次の三つの問いです。
・今の自分が求めていることに合っていたか。
・自分の気持ちも含めて、過ごし方を選べたか。
・どんな楽しさ、手応え、負担があったか。

その場では大変でも、後から「取り組んでよかった」と感じる時間もあります。
逆に、自分で選んだ活動でも、実際には合わないことがあります。

毎回「質が高かった」と結論づけなくて構いません。
「思ったより疲れた」「内容より相手との会話がよかった」と分かることが、
次の選択につながります。

誰かの「有意義」を、自分の正解にしていないか

■人と比べるほど、自分の休日が物足りなくなる

SNSを開くと、旅行、資格取得、趣味の作品、新しい挑戦が目に入ります。
何でもない休日が、急に物足りなく感じられることはないでしょうか。

特に、SNSや動画、テレビなど、目にするものはどちらかというと、
アグレッシブに活動している場面が多くなります。

誰かの活動に惹かれることは、新しい関心の入口にもなります。
ただ、同じ予定を入れる前に、どこに惹かれたかを少し確かめてみることも重要です。

旅行そのものなのか。自然の中で過ごすことなのか。気の合う人と笑っている姿なのか。

何もしないでぼんやりしている犬。
楽しそうに世間話で盛り上がるご近所さん。
ひたすらに仕事に取り組んでいる職人さん。
・・・

遠くへ行かなくても、近くの緑の中で過ごす時間が、自分の望みに合うかもしれません。
惹かれたものが分かれば、今の暮らしに合う形を探せます。

■「役に立つか」だけでは、自分の楽しみが後回しになる

家族に必要なものは買えるのに、自分が気になる本には「今、必要だろうか」と迷う。
人の相談には時間を使えても、自分の趣味には気が引ける。

周囲を支えることを優先する中で、そんな選び方が身についた人もいるかもしれません。

人の役に立つことが、自分の喜びである場合もあります。その時間も大切なものです。
同時に、自分の休息や楽しみにも場所があるかを確かめてみましょう。

人を大切にすると同時に、自分も大切にする。 時間の選び方にも、その両方を含められます。

■自分の気持ちと、周囲の条件を両方見る

心理学の自己決定理論では、本人の動機づけや健やかさに関わるものとして、
自律性、有能感、関係性と、それらを支える社会環境を重視しています。[2]

身近な言葉にすれば、「納得して選べる」「自分なりにできる・対処できると感じる」
「人とつながり、大切にされていると感じる」ということです。

この理論はQOTを直接測るものではありませんが、自分の時間を考える手がかりになります。

例えば、
習い事の内容が同じでも、間違いを責められる場と、自分のペースで質問できる場では
関わりやすさが違うでしょう。自分で選ぶ感覚は、相談相手や支えがあっても持てます。
一人ですべてを決める必要はありません。

ひとりでじっくりと進める習い事、多くの人と和気あいあいに楽しむ習い事、深く考えるもの、
体を動かすもの・・

周りに左右されず、その時々で、自分に合ったものを選択することも重要です。

日々の時間の積み重ねが、暮らしや人生の質につながる

■人生の満足を「いつか」に先送りしない

仕事が落ち着いたら。
家族の用事が一段落したら。
定年になったら。
・・・・

将来のために準備し、今の役割を果たすことには意味があります。
それとともに、今の自分が大切にしたい時間も、暮らしの中に置いておきたいものです。

一日を大きく変える必要はありません。
いつもの食事を少し味わう。気になっていた音楽を聴く。話したかった人に声をかける。

今を少し心地よくすることも、これからの人生を考える一部になります。

■QOTの積み重ねから、QOLを考える

QOLは、Quality of Life、暮らしや人生の質を指します。
WHOは、本人が暮らす文化や価値観、目標や期待などとの関係で、自分の人生上の位置づけを
どう捉えるか、という観点から定義しています。[3]

ここから、
この記事では、日々のQOTの積み重ねもQOLを形づくる一つの要素になると考えます。

ほっとできた朝食。気持ちが通じた会話。少し難しい作業をやり遂げた経験。
十分に休めた午後。そうした時間も、自分の暮らしを振り返るときの手応えになります。

もちろん、QOLは健康や生活環境などにも関わり、「QOTを足せばQOLになる」という単純な
公式ではありません。毎日の経験から人生の質を考える、この記事の見方です。

でも、毎日の積み重ねが人生とも考えれば、自分にとっての大切な時間をどう過ごすか?
と考えるきっかけになると考えます。

■よい時間を持てる条件も、一緒に整える

休みたいと思っても、介護や家事を一人で担っていれば、時間を確保しにくいことがあります。
費用や移動の制約から、参加したい活動に行けない場合もあるでしょう。

「気持ちを切り替えよう」だけでは、動かせない条件があります。

家族と用事を一つ分担する。
近くで利用できる場所を探す。
仕事の連絡に応じる時間を相談する。
使える支援を調べる。

そうした環境の調整も、時間の質を考える取り組みです。
余裕が乏しいときは、何かを追加するより、負担を減らす相談から始めても構いません。

「過ごしてよかった時間」から、次の選び方を見つける

■最近、どんな時間があってよかったか

最近の一週間を、少し振り返ってみてください。

仕事、家事、休息、遊び、人との関わりの中で、
「この時間があってよかった」と思える場面はあったでしょうか。

特別な体験でなくて構いません。通勤中に好きな曲を聴いたこと、
料理の工夫がうまくいったこと、同僚と笑ったことでもよいのです。

思い浮かばなければ、無理に探す必要はありません。
これから少し気持ちが動いたときに、「今、何がよかったのだろう」と気に留めてみます。

できれば、その時の気持ちをメモに残すとより鮮明になります。

■何をしたかだけでなく、「よかった条件」を言葉にする

「散歩がよかった」と思ったら、もう一歩だけ具体的にします。
・一人で、自分のペースで歩けた。
・静かで、急いで返事をする必要がなかった。
・誰かと、気兼ねなく話せた。
・適度に体を動かし、心地よい疲れを感じた。
・自分で行き先を選び、途中で変えられた。

ここから、自分に合う条件が見えてきます。
同じ活動を繰り返す以外にも、その条件を別の過ごし方に取り入れられます。

静けさがよかったなら、家で音楽を止めてお茶を飲むことでもよいでしょう。
会話がよかったなら、短い電話で話す方法もあります。

時間帯も重要です。
・早朝の朝もやの中
・朝のこれから一日が始まる感じ
・日中のみんながせわしなく頑張っている時間
・夕暮れ時
・夜しんとした時間
など・・

それらを組み合わせてみる方法もいいと思います。

■次の一回に、その条件を一つ取り入れる

グラットンさんは対談で、質の高い時間を見つけるには探索が必要だと述べています。
糸井さんも、その話を結果だけでなく過程を大切にする視点につなげています。[3]

これを日常に引き寄せれば、最初から「自分に合う過ごし方」を言い当てる必要はない、ということです。少し触れ、感じ、条件を変える。その途中で分かることがあります。

次の休日や日常で、見つけた条件を一つだけ取り入れてみます。

例えば、「急がず、自分のペースで過ごせたこと」がよかったなら、
次の休日に近所を10分ほど歩く。買い物はついでにせず、気が向かなければ短く切り上げる。

帰ってから、「どこが心地よかったか」「何が負担だったか」を一言だけ確かめます。
予定を変える必要があれば、別の日にしても構いません。

質の高い時間を、毎日つくらなければと考える必要はありません。
合わなければ変える、やめる、休む。その選び直しも、自分の時間を育てる過程です。

まとめ|時間の使い方に、自分の感覚を取り戻す

時間を量だけでなく、質で考える。

何時間空いたか、どれだけこなせたかに加えて、「その時間は、自分にとってどうだったか」
を確かめてみましょう。

集中して取り組む時間、誰かを支える時間、楽しむ時間、何もせず休む時間。
自分にとっての意味は、そのときの状態や環境によって変わります。

自分に合う時間を知り、それを持てる条件も整えていく。
日々のQOTを大切にすることが、暮らしや人生の質を育てる一つの道になります。

予定を埋める前に、自分の気持ちにも耳を傾ける。
時間の選び方から自分も主語になることは、自分イノベーションの身近な一歩です。

あなたが最近、「この時間があってよかった」と思ったのは、どんなときでしたか。

(参考資料)
[1] ほぼ日刊イトイ新聞(2016年12月20日). リンダ・グラットン×糸井重里「寿命100年時代をどう生きる?」第3回「価値観も変わっていくはず。」
https://www.1101.com/lynda2/2016-12-20.html

[2] Ryan, R. M., & Deci, E. L.(2000). Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being. American Psychologist, 55(1), 68–78.
https://selfdeterminationtheory.org/SDT/documents/2000_RyanDeci_SDT.pdf

[3] World Health Organization. WHOQOL: Measuring Quality of Life.
https://www.who.int/tools/whoqol

※本文の具体的場面は説明のための仮想例です。QOTの三つの問いと、QOTの積み重ねからQOLを考える整理は、上記資料を参考にした本メディアの応用・解釈です。

この記事のライター

「okinawa未来カレッジ」は、誰もが自分らしい明日へ一歩を踏み出せる、 未来に向かって前進し、新しいライフサイクルを創り出すコミュニティーを目指します。

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